・指揮:高関 健
・東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 (2020.8.12 ライブ録音)
日本人指揮者によるブルックナー の交響曲は、朝比奈隆や若杉弘のCDで親しんで参りましたが、ここに新たなCDが加わりました。
それが「高関健」指揮のブルックナー の交響曲第8番です。昨年2020年8月のライブ録音ですが、コロナ禍の中で徹底した感染対策を施して、公演を実現させた感慨深いライブです。まるでフルトヴェングラーが第二次世界大戦中に、ベルリン・フィルと演奏したのと同じような心境だったのかな、などと思うのは考え過ぎでしょうか。そんなことを想像しながら、第1楽章から聴いていきます。
緊張感のあるブルックナー 開始だ。少し力を抜いてと言いたいところだが、そこは指揮者の気合が楽団をそうさせているのだろう。金管群の伸びが若干厳しいかと感じられた箇所もあったが、曲が進むにつれて硬すぎる緊張は解けていき、金管楽器と弦との呼応も素直に溶け合いだしていった。その第1楽章末のトランペットとホルンは「死の予告」と呼ばれていますが、作曲者が意図した「死の時」として楽章は静かに終わります。
続く第2楽章はスケルツォ(アレグロ・モデラート)第1楽章と変わらずハ短調。主要動機からかなりテンポを落として始まる。そのドーミ、ファソ、ソは、表現が悪いかもしれませんが、安全運転のように周囲を慎重に見極めながら進んでいくような速度です。しかし、何度か聴き返してみるとこのテンポが心地よく、各楽器のフレーズがリアルに聞き取れることができます。往年の大指揮者フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュらの演奏とは明らかに違いがはっきり表われた主要部です。しかし、トリオ部での金管群の精度がもう少し高ければと、感じてしまいました。
第3楽章アダージョ。演奏時間は長大で約28分弱の楽章。様々な主題が歌われ、天国に彷徨い旅するような神秘的な和声によって、天上へと登り続けていきます。これは指揮者高関と東京シティのメンバーが、コロナ禍の終息を祈る鎮魂歌のようで万感がこもった楽章です。
第4楽章フィナーレ。荘厳に 速くなく ハ短調 弦のユニゾンで軍隊の行進のようなリズムから始まりますが、ブルックナー はこれを「コサック隊の進軍」といった。全休止のあと第二主題へと瞑想的なコラール風な楽句となりますが、ここから指揮者高関の望んでいる美しい響きが随所に現れてきます。弦も木管も金管も全てのバランスが整いブルックナー のフィナーレ楽章の真髄を聴かせてもらいました。
ブルックナー の交響曲は「終わりが始まり」と云われますが、まさに高関健のこの演奏を聴き終えると、またブルックナー の交響曲が聴きたくてワクワクしてきます。さあ、次は第4番か第5番か、指揮者高関健は何番を取り上げるのだろう。